Nくんから電話がかかってきたのは、物件を紹介してもらった翌週のことでした。
「売主の方に事情があり、できるだけ早く決済したいとのことです。2週間ほどで動けますか?」
2週間ちょっと。不動産の決済としては、異例のスピードです。初めての物件購入で、しかも融資で購入したい。正直「無理かもしれない」と思いました。
でも動いてみると、なんとかなりました。そしてその2週間で、私は初めての不動産投資で大きく失敗しないために必要なことを、骨身に染みて学びました。
それは、たった2つの習慣です。
習慣①:撤退ラインを先に決める
習慣②:判断するときにひと呼吸おく
どちらも難しいことではありません。でも、この2つがあるとないとでは、初めての交渉の場での「判断の質」がまったく変わります。今回は、私が経験した2週間の全記録を通じて、この2つの習慣がなぜ大切なのかをお伝えします。
習慣①:撤退ラインを先に決める
交渉の場に入る前に、私には「利回り15%を下回ったら買わない」という撤退ラインがありました。
前の記事でご紹介したように、物件を探す際にはSUUMOでエリアの家賃相場を調べ、利回りを計算するという手順を踏んでいました。
購入価格400万円、家賃が月5万円なら利回りは15%。このラインを下回るなら撤退する。あらかじめそう決めていたのです。
交渉当日、売主側が提示してきた条件はこうでした。
「購入価格:400万円 家賃:6.5万円」
頭の中で即座に計算しました。
6.5万円 × 12ヶ月 = 年78万円。
78万円 ÷ 400万円 = 利回り19.5%。
ラインを大きく超えています。正直、飛びつきそうになりました。でも私はこう答えました。
「まだ内見もしていないので、物件を見てから判断させてください」
内見後、条件を受け入れようと伝えると、今度は売主が首を縦に振りません。
「6.5万円の家賃は払えない」と言うのです。
最終的に、家賃は5.5万円で落ち着きました。利回りは16.5%。
ここで大事なのは、この数字が「撤退ライン(15%)を超えているかどうか」を冷静に確認できたことです。感情ではなく、あらかじめ決めた数字で判断できた。それが、この交渉で大きく失敗しなかった最大の理由だと思っています。
撤退ラインがあれば、「19%超えだから即決しよう」ではなく、「15%を超えているから条件次第で進められる」という判断ができます。数字は、感情から自分を守る盾になります。
習慣②:判断するときにひと呼吸おく
交渉の場では、会話の端々に判断を急かす言葉が散りばめられていました。
「他にも見に来る人がいる」
「物件が競売にかけられる前に動かないといけない」
「期限が迫っている」
初めての交渉で、しかも初めての物件。冷静でいられる状況ではありません。撤退ラインという「数字の盾」があったとしても、その場の空気に飲まれれば判断は鈍ります。
今思うと、たった1〜2時間「少し考えさせてください」と言うだけでよかった。
その間にNくんと話し、家賃の交渉余地をもっと冷静に考えられたはずです。
家賃は一度決めると、あとから上げることが非常に難しい。最初の設定が、その物件の収益を長期間にわたって決定します。
2週間の全記録——初めてはこんなにバタバタする
撤退ラインとひと呼吸の話をしましたが、実際の2週間はそれどころではないバタバタでした。現実を知ってもらうためにも、全記録をお伝えします。
現金は温存する。だから融資を選んだ
物件を購入する前に読んだ本に、こんなことが書いてありました。「不動産投資で規模を拡大したいなら、現金は温存しておくべきだ」と。
今回の購入価格は400万円。現金で払える金額ではありますが、そのまま使ってしまうと手元の資金が一気に薄くなる。次の物件を買うときに動けなくなる。そう考えて、融資を受けることにしました。
最初に電話した銀行は断られました。2行目にかけた地方銀行が、400万円の融資に応じてくれました。満額の融資も打診できましたが、初回ということもあり、まずは8割(300万円)でお願いしました。
今となっては、満額借りればよかったと思っています。現金を手元に残しておくことが、次の投資への備えになるからです。
「公務員に開業届?」——融資で最初につまずいたこと
融資の手続きを進める中で、銀行の担当者からこう言われました。
「開業届のコピーをご用意いただけますか」
頭が真っ白になりました。公務員なのに開業届?そんな届け出が受理されるの?しかも残り2週間を切っています。
そのとき助けてくれたのが、リベ大のコミュニティ「リベシティ」でした。先輩大家さんたちに相談すると、「公務員でも不動産賃貸業の開業届は出せる」「税務署に行けばその日に受理される」と教えてもらいました。
実際にやってみると、窓口での手続きは15分ほど。拍子抜けするほどあっさりと受理されました。知らないと恐ろしく見えることも、知っている人に聞けばすぐ解決する。コミュニティに入っていてよかったと思った瞬間でした。
有給を使って市役所・税務署を回った7種類の書類
開業届だけではありませんでした。融資と購入手続きに必要な書類は、全部で7種類にのぼりました。
住民票、印鑑証明、所得証明、納税証明(国税、県税、市税)……それぞれ取得できる場所が違います。平日の昼間しか動けない窓口ばかりです。教員という仕事柄、勤務中に抜け出すことはできません。昼からの有給休暇を数回取得して、一つひとつ揃えていきました。
2週間という期限の中で、授業の準備をしながら書類を集める。体力的にも精神的にも、なかなかハードな2週間でした。でも動き続けた結果、期限内にすべての書類を揃えることができました。「動けばなんとかなる」という感覚は、このときに初めて実感しました。
まとめ:2つの習慣が、初めての失敗を防ぐ
初めての物件購入は、今ふり返ると80点。合格ラインだと思っています。
2週間の決済、7種類の書類、初めての融資と交渉。それを大きな失敗なく乗り越えられたのは、次の2つがあったからです。
- 撤退ラインを先に決めていた——感情ではなく数字で判断できた
- ひと呼吸おく習慣があった——急かされても即決しなかった
この物件は今も所有しています。その後、家賃の値上げ交渉にも成功し、現在は月5.8万円で貸し出し中です。大きなトラブルもなく、初めての物件としては十分すぎる結果だと思っています。
不動産の交渉の場では、意図的かどうかに関わらず、判断を急かす空気が生まれやすい。初めてならなおさらです。撤退ラインという数字の盾を持ち、ひと呼吸おいてから答える。この2つを準備するだけで、防げる失敗がたくさんあります。
この記事を読んだあなたへ:次の一歩
交渉の場で焦らないために、今すぐ「撤退ライン」を決めておきましょう。手順はシンプルです。
- SUUMOで気になるエリア×間取りの家賃を調べる
最低額・最高額・中央値の3つをメモする(前の記事で紹介した方法)
▶︎ SUUMOで家賃相場を調べる - その3つの家賃で利回りを計算する
例)月5万・5.5万・6万 × 12ヶ月 ÷ 購入価格で計算
▶︎ 撤退ライン計算ツールをダウンロード(無料・Excel) - 「この利回りを下回ったら買わない」ラインを決める
私は表面利回り15%をラインにしていました。このラインが決まっていれば、交渉の場でどんな数字を出されても、感情ではなく数字で判断できます。
撤退ラインは「チャンスを逃すもの」ではありません。焦りやセールストークに惑わされないための、自分を守る盾です。物件を見に行く前に、必ず決めておいてください。
無料ダウンロード:撤退ライン計算ツール(Excel)
この記事で紹介した「撤退ライン」を、その場で計算できるExcelシートを無料で配布しています。
- エリアの家賃相場(最低・最高)を入力するだけで利回りを自動計算
- 目標利回りを達成できる最大購入価格を自動で表示
- ✅ 買える可能性あり/❌ 見送り推奨 を自動判定
- 使い方ガイドシート付き
物件を見に行く前に数字を入れておくだけで、交渉の場で感情に流されなくなります。私が実際に使っている判断基準をそのままシートにしました。
※ Microsoft Excel または Google スプレッドシートで開けます。ダウンロードは無料です。

コメント